お ぼ え が き

まえの記事 つぎの記事
日本フランス語学会第317回例会

日時: 2017年11月11日(土) 15:00-18:00
会場: 早稲田大学文学学術院 (戸山キャンパス) 33号館16階第10会議室

(1) 田代 雅幸 (筑波大学大学院)
「連辞par contreとen revancheについて」

(2) 川上 夏林 (京都大学大学院)
「心理事象を表す部分の与格構文についての考察」

司会: 守田 貴弘 (京都大学)
—————————————————————————————————
(1) 田代 雅幸 (筑波大学大学院)「連辞par contreとen revancheについて」

 本発表は、連辞par contreとen revancheの意味論的な違いと、それぞれに共通する意味構造について考察を行うものである。このふたつの連辞は、共に前後の発話の差異を問題とする対立の連辞であり、同じカテゴリーに属す連辞としては他にau contraireやloin de làがあげられる。対立の連辞の生起する環境の意味構造にはテーマの対立と視点の対立とがあるが、par contreとen revancheは共にもっぱら(1)(2)のようなテーマの対立をマークする表現であり、その点において、(3)のような視点の対立をマークしうるau contraire(、あるいはloin de là)と異なっている。つまり、par contre及びen revancheと他の対立の連辞の間には、生起環境の意味構造に違いが見られるのである。

(1) Si le jardin se trouvait à l'ombre, la maison, par contre, était en plein soleil. (Maupassant, Les Dimanches d’un bourgeois de Paris, Paris, 1880, cité par Trésor de la Langue Française informatisé)
(2) Ce qui lui manque [à Couture], je crois qu'il ne l'acquerra jamais. En revanche, il est bien maître de ce qu'il sait. (Delacroix, Journal, 1847, p. 225, cité par ibid.).
(3) Jean n’est pas fatigué, au contraire, il est en pleine forme. (『小学館ロベール大辞典』初版,小学館,p. 558)

しかし、共にテーマの差異をマークするpar contreとen revancheの違いを明らかにするためには、生起環境の意味構造ではなくそれぞれの意味論的な分析を行う必要がある。本発表では、par contreとen revancheの意味論的分析の困難さを明らかにしたのち、このふたつの連辞が生起する環境において常に2テーマ2レーマの意味構造が存在していることを主張する。

—————————————————————————————————
(2) 川上 夏林 (京都大学大学院)「心理事象を表す部分の与格構文についての考察」

心理動詞は経験者が置かれる統語的位置から以下(1)のように三つのタイプに分類されてきた。経験者が主語に置かれるⅠ型、目的語に置かれるⅡ型、間接目的語に置かれるⅢ型に分類される(cf. Ruwet1993)。これまでⅡ型は盛んに議論されてきたが、Ⅰ型、Ⅲ型はそれほど多くの関心を寄せることはなかった。これに対して本論では、(1)Ⅲ型と同じように経験者が与格表示される以下(2)の現象について論じる。

(1) Ⅰ型 aimer, haïr, détester, craindre, respecter, admirer, mépriser, envier, etc.
Ⅱ型 amuser, dégoûter, effrayer, impressionner, préoccuper, surprendre, etc.
Ⅲ型 plaire, déplaire, répugner, etc.
(2) a. Cette histoire commençait à me casser les pieds. (Yoshimoto Banana, Dur, dur)
b. Une boule d’émotion me noue la gorge. (Wataya Risa, Appel du pied, 以下A)
c. Ce livre lui a frappé l’esprit. (Ruwet1993)

問題は、どのようなメカニズムに基づいて現象(2)の心理事象解釈は生まれるのかという点にある。(2)の心理事象解釈は動詞の語彙的意味に求めることはできない。加えて、(2)の与格は拡大与格と呼ばれ、動詞の項構造には登録されていない項であることから、この現象を語彙意味論の枠組み内で論じることは難しいと考えられる。
(2)の与格は拡大与格の中でも部分の与格と呼ばれるタイプであるが、部分の与格構文は事例(3)のような物理的動作や事例(4)のような感覚事象を表す構文としても機能する。したがって上記の問いに答えるには、(3)のような感覚事象を表す現象との相違も明らかにする必要がある。

(3) a. Cette fois, il me pince la peau entre deux doigts. (Wataya Risa, Trembler te va si bien, 以下T)
b. Elle me prit le bras. (Jean-Philippe Toussaint, Fuir, 以下F)
c. Lorsque son bras m'enveloppait les épaules,j'avais l'impression d'être transportée sur un nuage. (T)
(4) a. Des courants d’air chaud, brûlant, me cinglaient le visage. (F)
b. Le jus de pêche me pique les lèvres. (A)
c. Un son de clochette, très aigu, à me casser les oreilles. (A)

以上の問題に対して本論では、まずは、構文文法論の枠組みから拡大与格構文内における内的経験を表す部分の与格構文の位置付けを検討し、その構文的意味を示す。そして、「作用域の転換」から(2)心理事象と(4)感覚事象の違いを明らかにする。最後に(1)Ⅱ型の動詞も部分の与格構文に現れる現象に注目し、心理事象を表す動詞構文がネットワークを形成していることを示す。

—————————————————————————————————
*早稲田大学文学学術院 (戸山キャンパス) へのアクセス
http://www.waseda.jp/top/access/toyama-campus
*戸山キャンパス構内案内図
http://www.waseda.jp/top/assets/uploads/2014/08/edb11e6c82861fa22b605950bcfdee00.pdf
*学会ホームページ
http://www.sjlf.org/