お ぼ え が き

まえの記事 つぎの記事
日本フランス語学会第310回例会

日時: 2016年11月12日(土) 15:00-18:00
会場: 早稲田大学文学学術院 (戸山キャンパス) 33号館16階第10会議室

(1) 長沼 剛史 (京都大学大学院)

「指示形容詞句ces N / ce Nによる総称解釈のメカニズム」

(2) 川上 夏林 (京都大学大学院)

「心理動詞らしさの意味論—心理的事態の〝いま・ここ・わたし〟性と内的視点—」

司会: 酒井 智宏 (早稲田大学)
—————————————————————————————————
(1) 長沼 剛史 (京都大学大学院)「指示形容詞句ces N / ce Nによる総称解釈のメカニズム」

従来の研究において、総称文の主語名詞句は定名詞句le N / les N 、不定名詞句un N に限られてきた。しかしながら、指示形容詞句ces N / ce N にも総称解釈がみられる(以下、
指示形容詞総称と表記)。指示形容詞総称は照応的用法(例1)、詠嘆記憶用法(例2)、周知の用法(例3)、見出しの用法(例4)の四つに下位分類できる。

(1) A:Mon cousin a acheté un labrador.
  B:Ah, ces labradors sont de très fidèles compagnons.【照応的用法】
(2) [イタリア人がナンパしているのを見て]Ah, ces Italiens ! 【詠嘆記憶用法】
(3) Il possédait une de ces figures heureuses dont rêvent les femmes et qui sont désagréables aux hommes. (MAUPASSANT, Une Vie) 【周知の用法】
(4) Ces migrants que la France ne fait pas rêver (Le Monde) 【見出しの用法】

前者二つは主に話し言葉、後者二つは主に書き言葉にみられる指示形容詞総称である。本発表では、前者二つの指示形容詞総称を考察する。また東郷(1999)の談話モデル理論を援用し、現場指示がプロトタイプ的用法である指示形容詞句がなぜ総称解釈できるのかを説明する。

(2) 川上 夏林 (京都大学大学院)「心理動詞らしさの意味論—心理的事態の〝いま・ここ・わたし〟性と内的視点—」

川上(2013)、(2015)では二つの心理動詞タイプについて論じた。一つはénerverやgênerなどの語彙的心理動詞タイプ。もう一つはfrapperなど動作動詞から心理動詞へと拡張したタイプである。アスペクトの点からみると、両者は同じアスペクト構造を持つと考えられるが、焦点化される相がそれぞれ異なる。前者は状態相が焦点化され、後者は変化相が焦点化される。事例(1)、(2)が示すように、状態焦点型では現在形・半過去形、状態変化焦点型では複合過去形が取られやすく、この傾向は両者のアスペクトタイプの違いを反映したものとして説明可能になる。

(1) a. Je n’arrive pas à comprendre et ça m’énerve. (Appel du pied)
b. Cette présence dans mon dos me gênait. (L’Etranger)
(2) C’est seulement quand il m’a déclaré : « Maintenant tu es un vrai copain » que cela m’a frappé. (L’Etranger)

しかし「心理動詞の意味論」という枠組みから見たとき、このアスペクトタイプの違いはどのような意味を持つのだろうか。本論ではこの問いを「心理動詞らしさ」という問題に結びつけて考察を行う。心理的事態の〝いま・ここ・わたし〟性に着目すると、心理動詞と「内的視点」の密接な結びつきが見えてくる。すると、「内的視点」が置かれやすい一人称・(発話時)現在形・状態性・非動作主を特徴とする事例(3)のような構文に現れる動詞がもっとも心理動詞らしい動詞として位置付けられる。その他の事例は、人称・時制・アスペクト・主語の性質が上記の基準をどれだけ満たすかによって「内的視点」の置かれやすさが決まり、それに相関して当該動詞の「心理動詞らしさ」が決定することになる。

(3) a. Ah, ça m’énerve !
b. Ah, ça me tue ! (川上2014)

つまり、状態焦点型と状態変化焦点型のアスペクトの違いは、「内的視点」の置かれやすさの違いを意味し、状態変化焦点型のほうが状態焦点型よりも「心理動詞らしさ」が低いという結論に至る。また本論全体を通して、「心理動詞とそうでないもの」という従来の語彙意味論的立場や、あるいは「心理動詞不要論」を採る立場とは異なる観点から心理動詞の意味分析が可能であることが示される。
—————————————————————————————————
*早稲田大学文学学術院 (戸山キャンパス) へのアクセス
http://www.waseda.jp/top/access/toyama-campus
*戸山キャンパス構内案内図
http://www.waseda.jp/top/assets/uploads/2014/08/edb11e6c82861fa22b605950bcfdee00.pdf
*学会ホームページ
http://www.sjlf.org/
*日本フランス語学会事務局
〒162-8644 東京都新宿区戸山1-24-1
早稲田大学文学学術院 酒井智宏研究室内 日本フランス語学会