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日本フランス語学会第306回例会

日時: 2016年5月14日(土) 15:00-18:00
会場: 早稲田大学文学学術院 (戸山キャンパス) 33号館16階第10会議室

(1) 津田 香織 (筑波大学大学院)
「日本語とフランス語の語りのテクストをめぐる一考察
—『ノルウェイの森 / La ballade de l’impossible』冒頭部分を例に—」

(2) 佐々木 香理 (関西学院大学非常勤講師)
「接頭辞 RE の機能-ramener / rapporter と remmener / remporter の場合-」

司会: 守田 貴弘 (東洋大学)
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(1) 津田香織 (筑波大学大学院)「日本語とフランス語の語りのテクストをめぐる一考察」

本発表では、日本語を原作とする小説とそのフランス語訳を比較し、両語のテクスト
構築の在り方の違いについて考える。観察対象とするのは日本語の小説『ノルウェイの
森』(村上春樹著、1987 年)とフランス語の翻訳書(La ballade de l’impossible, Corinne Atlan
訳, 2009 年)の冒頭部分(第 1 章)である。翻訳書は、原作を異なる言語で、原作に近
い形で再現することを本義とするものであるが、同時に訳された言語のテクストとして
の質も求められる。したがって、原作と翻訳のテクストに現れる違いは、両語の違いの
具体的な発現と考えることができる。
違いが顕著に現れる両語の述語形式に注目して、テクストの比較を行ったところ、テ
クスト中で記憶が問題となる箇所(回想及び回想内容に対するコメント)が、日本語と
フランス語とでは異なる方法で描かれていることが確認された。具体的にいえば、日本
語の当該箇所は作中人物の「僕」の視点から述べられていることなのか、物語の書き手
の「僕」の視点からのものであるのかが確定されないまま、話が展開する。一方、対応
する箇所のフランス語訳は、3 つの視点、すなわち 1) 作中人物の「僕」の視点、2) 物
語の書き手の「僕」の視点、そして 3) 回想内容を 1 つの物語として語る客観的視点が、
明確に分けられて、交替しながら、話を進める。
このようなフランス語訳のテクストを構築する仕方は、日本語のテクストにおいて不
確定な「主観的把握」(池上 2006)をフランス語で実現する翻訳者の解釈と言える(こ
のことで、日本語のテクストに見られる視点の曖昧な状態そのものは翻訳されたテクス
トには表されない)。また、ある物語を語るために、発話行為の場とは切り離された場、
すなわち récit (Weinrich 1971, 1989) の世界を明示する志向を持つフランス語と、récit
専用の形式を持たない日本語の語り方の違いが表出する一つの例であると考えられる。
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(2) 佐々木 香理(関西学院大学非常勤)「接頭辞 RE の機能」

本研究は接頭辞 RE(re, r, ré をまとめて RE と表記する)の本質的機能を解明する研究
の一環である.我々はこれまでに Franckel(1997)の指摘に基づき,認知動詞 reconnaître,
relire, retrouver, remarquer について検討した.そして動詞に RE を付加する際に発話者
は次のような発話操作を行うことを指摘した(状態,局面,状況,位置などを括り「あり方」
と呼ぶ).
(1) a. 発話者は認知対象を「認知主体が元は認識した(していた)もの」や「認知主体が
認識するもの」としてあらかじめ構築している.
b. 当初,認知主体はそうした認知対象を認識していない不安定なあり方(position non
stabilisée)にある.そうしたあり方から,発話者が構築した認知対象を認知主体が
認識することにより,安定したあり方(position stabilisée)に移行することを表す
際に RE を動詞に付加する.
本発表では,対象移動動詞 ramener,rapporter, remmener, remporter の実例を分析し,
RE の機能を検討する.そして(1)の仮説に必要な修正を加える.具体的には,(1)では
発話者による評価の対象は認知行為の対象であると述べたが,本研究では,評価の対象は
「ramener, rapporter, remmener, remporter の事行対象が移動先・移行先にあるというあ
り方」であることを主張する.さらに,RE の付加が難しい動詞の特性について検討する.
フランス国民教育省作成の現代フランス語において使用頻度の高い語彙の表
(eduscol.education.fr/cid50486/liste-de-frequence-lexicale.html) を参照すると,ramener
と rapporter は掲載されているものの,remmener と remporter は掲載されていない.実
際,今回使用したコーパスでも remmener の使用頻度は極めて低く,remporter について
も ramener と rapporter 程は使用頻度が高くない.そうした事実は RE の付加が難しい
動詞の特性の解明ひいては RE の本質的機能を明らかにする上で重要である.
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*早稲田大学文学学術院 (戸山キャンパス) へのアクセス
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早稲田大学文学学術院 酒井智宏研究室内 日本フランス語学会