お ぼ え が き

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フランス語には langue de bois(直訳すると「木製の舌」)という表現があり、仏和辞典をみると「紋切り型」などという訳語があると思います。
しかし実際には、この表現は政府機関などの言説に対して使われるので、わたしは、bois を生かして、「木で鼻をくくったような言辞」などと言っていたのですが、最近、偶然この表現の起源を知りました。
別の必要にせまられて、R. Amossy et A. Herschberg Pierrot (2009) : Stéréotypes et clichés, Armand Colin.を読みかえしていると、pp.114-115に特にこの表現を対象とする節が設けられていました。
langue de bois は1970年代にポーランドからフランスに入ってきた言い方で、ポーランド語では当時からいわれていた drętwa mowa の仏訳としてあみだされたとのことです。ポーランド語では、drętwa mowaは、共産党、とくにソ連の共産党の政治的言説に対する批判的な態度を示すために用いられていたそうです。
フランス語の文脈でも、当初はそれに近い意味、たとえば1982年版のPetit Larousseに記されている語義では、"phraséologie stéréotypée utilisée par certains partis communistes et par les médias de divers États où ils sont au pouvoir"(一部の共産党、および共産党が政権にある諸国のメディアによってもちいられる、ステレオタイプ化した言い回し)ということだったのですが、Amossy et Herschberg Pierrot (2009) によると適用範囲が急速にひろがり、1989年版のGrand Larousseにおける定義、"toute manière rigide de s'exprimer qui use de stéréotypes et de formules figées"(ステレオタイプや固定表現をもちいる、あらゆる硬い表現方法)にみられるように、非常に広く用いられるようになったとのことです。
しかし、そうはいっても、実際にはいまなお「硬直したお役所ことば」に適用しやすいと感じます。その点では、たんに「ステレオタイプや固定表現をもちいる、硬い表現方法」というだけではなく、当初の意味がいまでも、ある種の典型として用法の中核的部分に残っているのではないかと考えました。