お ぼ え が き

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チュニジアの都市名をアラビア語でいうときとフランス語でいうときで定冠詞の生起がことなる場合があり、まえから気になっていた。

わたしの知るかぎりでは、つぎの4つのケースにわかれると思う。
(1)アラビア語でだけ定冠詞がつく都市名。たとえば、エル・カイルアーン El Qairuân。フランス語ではケルアン Kairouan。
(2)アラビア語の定冠詞をそのままフランス語にもちこんだ都市名。たとえばエル・ジェム El Jem。写真はエル・ジェムの円形競技場と博物館の入場券(アラビア語、フランス語併記)。

El Jem

(3)アラビア語の定冠詞をフランス語の定冠詞に「訳した」都市名。たとえば、エル・ケフ El Kef。フランス語ではル・ケフ Le Kef という。
(4)フランス語でだけ定冠詞がつく都市名。たとえば、ラ・マヌーバ La Manouba。アラビア語では単にマヌーバ Manûba(語末はター・マルブータ)。
ラ・マヌーバの「マヌーバ」は、アラビア語源でもフランス語源でもなく、おそらく古代カルタゴ人の言語で「(農産物の)市場」という意味の語にさかのぼるといわれている。

(3)のタイプのひとつの変異として、地名全体がゆるやかな翻訳関係にある事例もある。地理学用語でいうところのチュニスの「外港」にあたる都市が、アラビア語ではハルク・エル・ワーディー Halq El Wâdî だが、この都市名をフランス語ではラ・グーレット La Goulette という。Halq と goulette がともに「のど」の意味なので、一部翻訳的関係にある(が、アラビア語では Halq にではなく Wâdî に冠詞をつけているという点で、こまかくみると異なる)。
ハルク・エル・ワーディーは、チュニス湾、チュニス湖、そして地中海にはさまれた狭い陸地(「地峡」)なので、それを隠喩的に「のど」といっているのだろう。wâdî は「谷」だが、ここでは「地峡」のことではないかと勝手に推測している。