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日本フランス語学会 第300回例会

日時: 2015年6月20日(土) 15:00-18:00
会場: 早稲田大学文学学術院 (戸山キャンパス) 33号館16階第10会議室

(1) 小川 彩子 (関西学院大学大学院)

「Il y a Y qui + V 構文とX avoir Y qui + V 構文の働き―<名詞句(Y) + qui + 動詞句>型の表現の分析を通じて―」

(2) 安齋 有紀 (島根大学)

「自然対話における発話主体間の対話調整:共発話者への働きかけを示す談話マーカーの考察」

司会: 酒井 智宏 (早稲田大学)
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*早稲田大学文学学術院 (戸山キャンパス) へのアクセス
http://flas.waseda.jp/flas/access/
*学会ホームページ
http://www.sjlf.org/
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(1)小川彩子(関西学院大学大学院)「Il y a Y qui + V 構文とX avoir Y qui + V 構文の働き―<名詞句(Y) + qui + 動詞句>型の表現の分析を通じて―」

「息子が私を待っている」とフランス語でいう場合、次のような言い方が考えられる。
(01) Mon fils m’attend.
(02) Il y a mon fils qui m’attend.
(03) J’ai mon fils qui m’attend.(Je Reste !, film de Diane Kurys, 2003)
外国人のフランス語学習者が初級の段階で通常学ぶのは、(01)の<名詞句(Y) + 動詞
句>のシンプルな表現であるが、ネイティブは(02)の<Il y a Y qui ...>という構文(以
下「Il y a Y qui + V 構文」とする)を頻繁に使用する。また、(03)はある映画の台詞と
して使われた文であるが、ネイティブはこのような<X avoir Y qui ...>という構文(以
下「X avoir Y qui + V 構文」とする)も頻繁に用いる。
(04) Mon fils qui m’attend !
さらに、文脈によっては(04)のような<名詞句(Y) + qui + 動詞句>型の表現も可能
である。本発表では、<名詞句(Y) + qui + 動詞句>型の表現の分析を通じ、Il y a Y qui
+ V 構文およびX avoir Y qui + V 構文の働きならびに両構文の表す内容の差異を明ら
かにすることをめざす。なお、Il y a Y qui + V 構文に関しては、本発表の考察対象は
擬似関係節を伴うIl y a Y qui + V 構文とし、いわゆる制限的関係節および同格的関係
節を伴う文は考察の対象としない。
考察の順序としては、まずIl y a Y qui + V 構文におけるIl y a の働きに関する先行
研究を紹介する。次に(i) Il y a Y qui + V構文とIl y a を伴わない<名詞句(Y) + qui + 動
詞句>型表現の比較、(ii)<名詞句(Y) + qui + 動詞句>型の実例を題材に、話し手はど
のように状況を把握しこの表現を用いているかを考察することにより、Il y a の働きを
導き出す。
さて、Benveniste(1966)は動詞avoir を用いる話し手は対象に影響を受けた主体の状
態について主に語っていると説明するが、X avoir Y qui + V 構文に関しても
Benveniste(1966)の考え方を応用することができるか、つまりX avoir Y qui + V 構文
を使用する話し手は<名詞句(Y) + qui + 動詞句>が表す事態に影響を受けたX につい
て語っているといえるかという疑問を提示する。Il y a Y qui + V 構文を使用した発話
例と、その例をX avoir Y qui + V 構文に言い換えた文とを比較しその違いを分析する
とともに、上記の疑問を解明していく。さらに、X avoir Y qui + V 構文を使用した発
話例と、その例をIl y a Y qui + V 構文に言い換えた文との比較対照を行うことで、両
構文のもつ意味を深く考察していく。
なお、本研究では約60 本のフランス映画を見ることで、考察の対象となっている三
つの構文を網羅的に発見しようと努めた。
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(2) 安齋 有紀 (島根大学)「自然対話における発話主体間の対話調整:共発話者への働きかけを示す談話マーカーの考察」

本発表では、発話者が自らの先行発話を別の語あるいは表現で言いかえ、それを共
発話者に提案する際に使用するsi vous voulez, disons の対話調整機能について説明する。
発話者は、発話の指示対象X についてある語や表現によってそれを共発話者に伝え
る時、自分が使った語や表現で示された指示対象X の概念を共発話者が共有できるか
どうか見直し、別の語や表現で言いかえる方が適当であると判断する場合は、以下の
例のように談話マーカーによって新たな表現を導入する。
(1) - c’est quoi la convivialité comment ça s’marque
- ben c’est les différences de culture… apprendre si vous voulez euh la culture des autres
(2) - un peu plus la jeunesse oui euh oh une adolescence un peu tardive disons quand on
avait vingt ans
このような場面で、発話者は共発話者の視点から共発話者の認知領域に合わせた言い
かえを試みるが、同時にこの言いかえによって提案された語や表現には、発話者の視
点で新たに定義した語の使い方が含まれ、それを共発話者に提案している。つまり、
共発話者と共有可能な認知領域を拡げることを目指す一方で、指示対象には複数の解
釈があることを共発話者に示していると考えられる。
このように、指示対象について複数の解釈が存在し、発話内容についての主体間の
理解の不一致(ずれ)が生じる可能性がある場面で、談話マーカーsi vous voulez, disons
はどのような対話調整に関わっているのか。それぞれのマーカーを使用する時、発話
者は発話の指示対象に対してどのような視点で言いかえを行い、共発話者に対してど
のような立場から、何を働きかけているのか。自然対話におけるsi vous voulez, disons
の表出例を使って、マーカーの周辺に観察される言語要素、対話においてマーカーが
表出する位置、音声特徴について考察し、対話における発話の修正―新たな提案を導
入するプロセスと、それぞれのマーカーが示す機能について整理する。
[付記]この研究は、現在進行中の日本フランス語学会研究促進プログラム「パロールの
言語学」の一環で行なっているものである。