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日本フランス語学会第299回例会

日時: 2015年5月9日(土) 15:00-18:00
会場: 早稲田大学文学学術院 (戸山キャンパス) 33号館16階第10会議室

(1) 田代 雅幸 (筑波大学大学院)

「ディアローグにおけるau contraireの論証的な動きについて」

(2) 津田 洋子 (京都大学大学院)

「現象文 « Le facteur qui passe ! » と発話の場―非自立的な文の解釈をめぐって―」

司会: 守田 貴弘 (東洋大学)



*早稲田大学文学学術院 (戸山キャンパス) へのアクセス
http://flas.waseda.jp/flas/access/
*学会ホームページ
http://www.sjlf.org/



(1) 田代 雅幸 (筑波大学大学院)「ディアローグにおけるau contraireの論証的な動きについて」

本発表は、au contraireの対話的な用例について、その論証の動きを明らかにするとともに、Henning Nølkeのポリフォニー理論、ScaPoLineを用いた記述を試みるものである。
 ScaPoLine (théorie scandinave de la polyphonie languistique) とは、Nølke独自のポリフォニー理論である。ポリフォニー理論であるからして、ScaPoLineも言語の多声性をラングのレベルで記述することを目指すものであるが、ScaPoLineの特徴はこのような言語現象を全てラングのレベルに押し込めてしまおうとするのではなく、ラングのレベルとそれ以外のレベルをしっかりと区分していこうとする理論になっているところである。そして、言語の論証的な側面を記述するにあたり、この理論を用いてラングのレベルで行なわれていることをしっかりと見定めることが、ひいてはパロールのレベルで行なわれていることを見定めることにも繋がるものと考えられる。
 以前の研究で明らかにしたように、新聞記事等のモノローグ的な用例において、au contraireの用法は大きく2つに分けることができる。(1)は前項に却下を含む論証タイプであり、(2)は前項に却下を含まない非論証タイプである。
(1) Paul n’est pas adorable. Au contraire, il est parfaitement détestable.
(2) Une voix de soprano au contraire très grave[…].
 この2つの用法の観察からau contraireは、問題となっている叙述の対比に極端な対立を持ち込む機能を持っている、と分析することができる。論証タイプと非論証タイプの違いはこの対比される叙述の関係性の違いに起因するものである。
 本発表では、モノローグにおけるこの分析から、より対話的なディアローグの用法がモノローグ用法の論証タイプとScaPoLineを用いた記述を試みる。

 [付記]この研究は、現在進行中の日本フランス語学会研究促進プログラム「パロールの言語学」の一環で行なっているものである。



(2) 津田 洋子 (京都大学大学院)「現象文 « Le facteur qui passe ! » と発話の場―非自立的な文の解釈をめぐって―」

 本発表では、統語的には名詞句である(1)のような現象文「名詞句+関係節」が、話し手と聞き手の間で「文」として成立するうえで、何が必要で、どのようなメカニズムが作用しているのかを考える。また、現象文が表す事態がどのような事態であるかも考察する。
(1) Le facteur qui passe !
 文は文の事柄内容を表現する部分と話し手の判断や発話態度を表現するモダリティ部分とからなるとされるが、文タイプの研究が盛んな国語学・日本語学において、現象文は、断定(述べ立て)とよばれる発話態度を持つ文タイプとして分類される。
 一方、フランス語において、言語(langue)を話し手の言(parole)にする現動化は、文の要となる動詞においては、動詞を定形にすることにより行われるが、「名詞句+関係節」で表される現象文は主動詞を持たないため、文として自立していないといえる。
 そこで、まず、(2)のような提示詞を含む文タイプと単独の「名詞句+関係節」に関する先行研究(Rothenberg1971, Wehr1984, Sasse1987, Furukawa1996,2013)を考察する。これらの文タイプに含まれる関係節は「擬似関係節」と呼ばれ、「名詞句+関係節」でひとまとまりの命題内容を表すという点で、通常の関係節とは区別される。
(2) { C’est / Il y a / Voilà } le facteur qui passe !
 その上でILYA「名詞句+関係節」は、「出来事が過去にあった」あるいは「今、目の前に事態が存在する」というように話し手が出来事や事態の存在を断定し談話に導入することを説明する。一方、単独の「名詞句+関係節」においては、自らは主動詞を持たないため、出来事の現動化に必要な時空領域は、話し手と聞き手を含む発話の場(発話状況)が談話に供給されることにより、文として成立することを説明する。
 さらに、これまであまり違いが指摘されてこなかった現象文「名詞句+関係節」とVOILA「名詞句+関係節」において容認度に差がでる場合があることを観察する。そして場面転換を聞き手に促すVOILA「名詞句+関係節」は、【-P】→【+P】への気づきによる認識の変化を示すのに対し、現象文「名詞句+関係節」は何の予告もなく突発的に起きた事態の【+P】の認識のみを表すことを説明する。